Life Cafe No.65
8/16

かしておいてごめんねと、ここ数日毎日のように撫でていましたら 徐々に艶やかな輝きを取り戻してきたようです。女性は結婚し役割ができると、なかなか自分の名前で呼ばれなくなります。そんなとき、この茶筒をみると自分のアイデンティティを確認できたりすると考えるのは、ちょっと大げさかもしれませんが、ふと 誰に対しての役割もない、ただの自分に戻れる気がして嬉しいのです。 そして、モノに触れること、これはモノだけでなく、長年連れ添った パートナーやもうずいぶん大きくなった子供に対しても、ときには背中や肩を触って労わることも大切かな、と感じました。 人のぬくもり、「触れる」ってとっても大切なことだと、輝きを取り戻した茶筒をみながら、ふとそう考えました。京都の「開化堂」の茶筒。言わずと知れた日本で一番古い歴史をもつ手作り茶筒の老舗です。 開化堂の茶筒は、地肌を生かした塗装のない茶筒。触ったときにひんやりとした、でもそれでいて優しいぬくもりのあるカーブがすっと 手に馴染みます。新品のまぶしいほどの光沢はだんだんと落ち着いた色合いになり、毎日使うことによる「手擦れ」によって風合いが変化してきます。私はずっと中国茶を入れて使ってきましたが、何も茶葉だけを入れるという決まりはありません。コーヒー豆、らくがんや金平糖、パスタだって。開化堂のサイトには、色鮮やかなものが入れてある写真が載っています。職人の技でぴったりとしまる精密な作りは、どんなものも酸化させずに保存してくれます。写真の銅とブリキの茶筒はちょうど10年前、嫁ぐときにいただいたもの。茶さじには自分の名前が彫られています。なでると風合いが良くなると聞いていたので、最初は嬉しくて毎日のように撫でていたものの、気が付けばキッチンの水しぶきがかかったのに気づかずに錆びてしまった箇所や色むらも出てきてしまいました。 久々に日の目を浴びた茶筒はなんだかくすんでいました。ほったらモノに触れることでそのモノの艶が増してくるそのことでまた愛着が湧いてきますお気に入りの小物があれば、こころがちょっとしあわせになる、というお話。お問い合わせ先/開化堂 〒600-8127 京都市下京区河原町六条東入 http://www.kaikado.jp/エッセイスト・利き酒師・マナー講師日本酒にまつわるエッセイや生き方についてのコラムを執筆。http://www.isoberan.com/◎ライター磯部らん8

元のページ  ../index.html#8

このブックを見る