Life Cafe Vol.77
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11レトロ建築に逢う写真で見る建物の歴史横浜市大倉山記念館東急東横線大倉山駅下車約7分、路線沿いの坂道を登っていくとギリシャ神殿風の建物が現れ、その荘厳さに驚かされます。一見すると石造りの神殿のようですが、鉄骨・鉄筋コンクリート造です。中に入るとエントランスには高さが約21メートルの吹き抜け天井があり、見上げると金色の光が上から降り注ぎます。宗教的なものはありませんが、少し敬虔な気持ちにもさせられます。この建物は実業家で東洋大学学長を務めた大倉邦彦により「東西両洋における精神文化及び地域における歴史・文化に関する科学的研究及び普及活動を行い、国民の知性及び道義の高揚を図ることにより、心豊かな国民生活の実現に資し、もって日本文化の振興及び世界の文化の進展に寄与する」⦆ことを目的に創設されました。1932年(昭和7年)大倉精神文化研究所の本館として竣工、1981年(昭和56年)に研究所から横浜市が寄贈を受けました。現在は、改修を施して市民利用施設として利用されています。外観の特徴は上部が太く下部が細くなる裾細り(すそぼそり)の円柱で、下から見上げると、真っ直ぐな円柱よりも安定して見える錯覚を生むため巨大建築物の柱に用いられ、現代の建築でも使用されている構法です。通常の古典主義様式の建築物はギリシャ文明以降の建築が基礎となっていますが、設計者である長野宇平治は、「プレ・ヘレニック様式」を採用しました。これは「プレ=前身 ヘレニック=ギリシャの」という言葉でギリシャ文明以前にエーゲ海で栄えたクレタやミケーネ文明の建築様式であることを表しています。建物の細部を詳細に見ていくと、壁の目立たたない部分にも文様が隠れています。「トリグリフと半ロゼット」「円盤列」「連続螺旋(らせん)文様」はクレタ起源のデザイン、「三角型空間」「ロゼット」「山形・螺旋両文様の構成装飾」「三連出入り口」はミケーネ起源のデザインです。この独特の雰囲気を持った西洋建築に和の意匠が加わります。彫刻家で東京美術学校の教授を務めた水谷鐵也の作品である建物正面の屋根にある八咫鏡と鳳凰は、正倉院の宝物を模したものです。建物 が 東 西 文 化 融 合 の 建 築 理 念 に 沿 っ て い る こ と が わ か り ま す 。◎取材協力/横浜市大倉山記念館 http://o-kurayama.com

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